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  • 執筆者の写真山下菜美子プロデュース namipro

ナミプロ本インタビュー抜粋④ 佐藤仁美編

ナミプロ本インタビュー記事抜粋掲載、第4回目は佐藤仁美さんです。

山下とは20年来のお付き合いのさっこさん(佐藤さんのあだ名)。

初の外部出演の経緯と、表現の《引き出し論》については、ナミプロ本にたっぷり掲載されておりますので、ここでは文字数の都合でカットになった部分をあわせつつ、稽古が始まる前の心情をお伝えできればと思います!


山を動かす!

N 毎回ね、X-QUEST(エクスクエスト)の公演に関わる度に、勿論最大限楽しむんですけど、やっぱりこう、さっこさんの《人間》を観たいと思うんですよ。人外の者とか、謎の術を使うとか、人形とか、神様とか。あ、仙人か(笑)それもそれで大好きなんですけど、でも、どうしても違うさっこさん見たいなと思って。もうこれは、山を動かすには私しかいない、みたいな謎の使命感(笑)だからもう、お引き受け頂いた時に山が動いた!って。きっとすごく良いタイミングだったんですよね。私がプロデュースやろうって思ったタイミングと、さっこさんが『ちょっと外に出てみようかな』って思ったタイミングが一緒だったから。すごい嬉しかったし、そういうタイミングが合う時ってあるから、世の中には。

「びっくりしたけどね。もう一生に一度の」

N いや、一度と言わず、うちのレギュラーになってもらわないと(笑)

「例えば、まず一人芝居をやろうと思っても、やりたいつって出来ることでもないから。エネルギーさえあれば出来るもんでも無いから。いきなり初めてで、こんなチャンスくれるの?って。私は本当はずっと何十年も、会話がやりたいと思ってるタイプだから、これはちょっとやってみないとわからないけども、相手がいてナンボというやり取りの機微が好きな人間にしてみれば、一人芝居がはらんでいる難しさとか危険度とか、普通の芝居以上に独りよがりになりがちな危険性が高いので、難関でもあるけど、難関であるが故に、一度は挑戦したいことではある。」

N 私も、どっちかって言うと会話が好きだから、やっぱ役者さん同士がちゃんと会話できてる芝居が好き。なんか、一人芝居って独特ですよね。あ、でもさっこさん一人芝居やってますよ。金銀の。(※エクスクエスト【金と銀の鬼】)洋風おにぎり。名作。あれ15分ぐらい?


「10分から15分くらい。」

N もう終わるだろう、ってなってから、もう一回あるところ、みんな好きだと思うけど(笑)だからさっこさんが出るよって言うと皆、『洋風おにぎり?』って言うよ。今回の一人芝居はそっちじゃなかったっていう。全く違う表現の。真逆。

「真逆だね。ほぼセリフがない。だから、一人で喋り倒す15分の経験があったとしても、それとは全然違う、セリフを覚えて言えば何とかなる、っていう事とは違う世界を作んなきゃいけないから。これは本当に未知だし、難しいなとは思っているけど。自分が《どうやりたい》よりも、《何を望まれているのか》《どういう作品にしたいのか》を、演出家だったり作家さんだったりが望むのか、っていうことを知りたい。知りたいっていうだけで台本を読むので、それがまだ稽古が始まってないからスタートができない状態に近いっていうか、模索するだけの日々の状態。

N でも、いいんじゃないですか?今すごいペロって言っちゃったけど。なんか、あの、大きく分けて役者さんのタイプの中で、物凄いきっちり作り込んで稽古に臨む人と、外枠だけ捉えておいて『結局稽古場で作らないとね』って人と。役者さんのタイプは大きく分けて2つだと思っていて。私は、ガチガチに決め込んでくるんじゃなくて、枠だけちゃんと捉えてて、稽古をしながらその中で生まれてくるものを大事にする方が、役者さんとしては好きですね。


余白だらけの台本

「だから今はいろんな想像を。もうこの(【漂白剤】の)台本て、余白がめちゃくちゃあって、書かれてるようで書かれてないから。どうとでも受け取れるし、どうとでも演じられるなって思うから。」

N なんかすごい、いい加減なこと言えば、ざっくりでいいんすよ。そういう意味で、たくさん稽古をする戯曲じゃないから。疲れるだろうし、しんどいだろうし、メンタル的に。ただ、段取りが山のようにあるし、ちゃんとやらないとちょっと危ないこともあるので。やっぱり怪我しちゃったりとか、段取りとか間違えると怪我しちゃうから、そういう意味での段取りを頭に入れることをね。

「それは本当にそうで、長く稽古すれば良いってもんじゃないし、芯をとらえるまでの稽古をしたいとは思うけど。1年も2年も稽古すればその分良くなるかって言ったらそうでもないと思っているので」

N 鮮度が落ちますよね、やっぱり。


「そう。役者の内面的な鮮度もそうだけど、発想も。演出の発想も、二転三転して初めて観るお客さんとは遠いところに行ってしまう可能性をすごく感じたりして。違う事をやってみたくなっちゃうからね。どんどん最初のことから離れていくっていうか。ただ、ちゃんと練る稽古をしたいとここ30年ぐらい思っていて。それは今回叶うのかなとは思ってますけど。」

N 練りましょう!

「応えられるかな、私。」

N それは絶対大丈夫。

「でも、これ、すごい難しい題材でしょう。」

N 難しいと思います。誰でも出来る戯曲じゃないと思います。まあ、何でもそうなんですけど。特に役者を選ぶ戯曲だな、と思います。

「面白くなくなっちゃう可能性があるじゃない?普通のことが…普通のことが起こらないから。あ、いや、普通のことは起こるんだけど、普通じゃない状況だから。でも《彼女》にとっては普通、という。普通とか普通じゃないとかいう次元の話じゃないから。」

N だから、でも、なんかやっぱり演じる人によって全然変わってくると思うんですよ。何か、きっとね、余白がいっぱいあるから。

「どういう風に変わるのかは、ちょっと楽しみでもあるんだけど。でも堤さんがね、『稽古は互いに、絶対見ない方がいい』って言ってたの。私も、見られるのは全然構わないけど、見たくはないかも。気になっちゃう、気にするとかっていうよりも、なんか自分の解釈がブレることがあるかもって。例えば、堤さんとそれでいいんだってなってた事が、他の人のを見ちゃうと『あ、これもOKなんだ』っていうような、余計な情報が入る可能性が、自分はあるかなと思って。そうならない人もいっぱいいると思うけど。


N 役者さんの性質によって、ってことですよね?

「私が、どう考えても本当は真ん中に立つ人じゃなくて、脇でやってるのが好きな方だから、合わせるのが好きな人だから。何て言うのかな、『あ、そう来るか』を楽しむので。自分が仕掛ける側ではなくて、受ける側、大きく言うなら言い方アレなんだけど、『どう出るか。お!こう来たか!』を受ける感じを楽しむのがすごい好きなので、ど真ん中で『私はこうしたい!私の解釈はこうです!!』っていうタイプとちょっと違う、二つに分けるなら『そう来たか』の方なので、そういう意味で受けやすいと思うんだよね。」

N あー、そうかそうか。人のを見ても『そう来たか』って思っちゃうかもしれないのか。受けやすいから。

「見られるのは全然平気なんだけど、見ると影響されると言ってしまえばそれまでなんだけど。そういうのが起こったらと思うと、初日を迎えるまではやだなって。そしたら堤さんもそういう風に言ってたから。」

N その方が、それぞれの独自の世界に没頭できる、っていう事なんだろうな、たしかに。

「没頭する本だし、没頭してナンボなとこあるし。そういうのも稽古場で作っていくんだろうなと思いながら。やっぱり感覚として分からないと思うところがね。どうなんだろうなーって思っちゃう。」

N 私もそういう意味では、無責任に『どうなるんだろうな』っていう楽しみしかない。私はこの話、ただの*****の話だと思ってるから。

「そうそう。私は言ってしまえば、この人本当に*******とは言えないよねって」

N そう、そういう色んな価値観、自分はこうじゃないな、とか。激しく共感して泣いてしまった萌ちゃんみたいな人もいれば、色々な受け取り方ができてしまうから、それでいいと思うんですよね。一個じゃないから。色んな演じ方ができる分、色んな受け取り方が出来ると思っていて。どこにお客さんが引っかかるのかも全くわからないし、逆に言ったら全部嫌悪感で終わるかもしれないし。

「ね。やってる事がコトだからね。」

狂気をはらんだ女性は美しい

N 観終わった後に、本当にいい気持ちにはならないかもしれないし、もしかしたら清々しいって思っちゃう人もいるかもしんないし。分からないよね。分からないし、こう受け取ってくださいって提示する気もない。あと、私は、堤さんが書く酷い話がとても好きで。救いが一個もないから。でも、すごく悲劇をデコレーションしてるわけでもないし、お涙頂戴ってわけでもないし。すごい遠い話のような、すごい近い話のような、人間の見たくない部分をすごく感じれるというか。でも、誰もが持ってるかもしれない問題だから、すごく余白があるし。そこでその解釈が、全部その人に返ってくる。生き方・価値観・考え方、その人全てに返ってくる、と思ったんですよ、この本って。

「だからすごい怖い。プレッシャー。衝撃的であるっていうのは、内容的に間違いないとして、そこが好まれるかどうかいうのは。ま、そこは気にしない逆に。超えるか超えないかは紙一重だけど、大きな一枚。」

N 本当に。そこは人間として、人として生まれた以上は。だからこその創作物っていうのがあって、それは、その表現の自由は奪えないと思うんですけど。だからね、ごっちゃにするからおかしなことになる。だからそういう意味では、お客様全員に嫌悪感をもってほしいくらい(笑)でも、そういう狂気をはらんだ女性は美しいと思うので、女性独特の美しさが出てくるんじゃないかなと思います。

―続く


例によって、ネタバレ・解釈に関わる箇所は伏字となっております。

ご了承くださいませ。

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